私が夢見た学校

私には長年ともにやってきた人々がいます。彼らは、近すぎも遠すぎもしないところから少なくとも10年、長ければ20年以上、私を見守り、役に立つアドバイスを惜しみなくしてくれました。それは彼らが、私がしてきた国学と国学運動が韓国のために必要であり、脳教育と地球市民運動が人類の未来のために必要であることを認めていたからです。

しかし、時には彼らさえも私のすることことに首をかしげます。そんな時は、個人的に顔を合わせて必ず尋ねます。そのうちの一つが、ベンジャミン人間性英才学校の名前でした。「なぜ学校の名前がベンジャミン人間性英才学校なのですか? 一指人間性英才学校や弘益人間性英才学校ではなく?」 彼らは通常、設立者や追求する思想で学校の名前を付けるのが常識だと思っているのです。

ベンジャミン人間性英才学校は、私が設立した自己主導・体験型オルタナティブスクールです。学校とはいえ常識を外れた学校です。学校なら当然あるはずの5つがありません。学校の建物がなく、教科授業がなく、テストがなく、成績表がなく、宿題がありません。それなら何を学ぶ学校なのかと思うかもしれません。この学校は人間性の学校です。生徒が1年間、自分の人間性を育み、自分の夢を見つけて実現する自己啓発学校です。

▶生徒が自分で問題をつくり、自分の答えを見つけていくような学校が作れないだろうか?

もし私が10代に戻れたら、ぜひ一度通ってみたい学校です。長年、私の頭の中で構想し、想像の中で設立した学校を60代半ばになってから実際につくったのです。私は学校に通っていた頃、テストが本当にたくさんありました。ある時は月に2回も大規模なテストを受けなければなりませんでした。そのとき私は思いました。私は準備もできていないのに、私はしたくもないのに、なぜ一方的に決められたテストを受けないといけないのか。そして、なぜ、いつも他の人がつくった問題を解いて答えを当てないといけないのか。自分で問題をつくって答えたら、なぜだめなのか。私にはこのすべてが疑問だらけでした。

テスト問題を自分でつくるのは、絶対に些細なことではありません。とても大事なことです。自分で問題をつくって答えを見つけるのは、問題解決能力を育てるために最も重要なことです。いつも誰かが投げた問題の答えを探し、正解をあてるのに戦々恐々としているのとは次元が違います。テスト問題を自分でつくることが主体性であり、自分で答えを見つけていく過程が問題解決能力です。このようなとき、人間の脳は創造性を発揮します。

人生は、単純に見ると、問題の答えを見つけていく一連のプロセスです。だから、自分で問題をつくる経験をすることがとても大事です。そのとき、自分の脳を活用することができ、脳のあるじになり、人生のあるじになることができます。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズが大学をやめたのは、自分で問題をつくることを決めたからだと思います。自分でつくった問題を解決するのも忙しいのに、人がつくった問題を解く時間はなかったでしょう。

ベンジャミン学校の生徒は、自分の脳を活用して、自分で問題をつくり、問題を解く主体的で創造的なプロセスを体験します。ベンジャミン学校の生徒は、自分に2つの問題を投げかけます。一つは、自分がしたいことを選択してやり抜くベンジャミンプロジェクト、もう一つは、自分で選択してやり遂げる職業体験活動です。

ベンジャミン学校の生徒は、ベンジャミンプロジェクトという問題を自分自身に投げかけます。自分のプロジェクトの目標を決め、それを達成するために努力します。友達とコラボしたり、メンターからアドバイスをもらったり、生まれて初めて役所に行ってみたり、見知らぬ地域や国に行ってみたり、新しい人や新しい分野、新しい自分に出会います。その過程で、チャレンジ意識や自信が生まれます。「選択すれば成し遂げられる」という夢をかなえる法則を体で覚えるようになるのです。

もう1つは職業活動体験を行います。いつも両親から小遣いをもらったり、駄々をこねていた高校生が、パン屋やレストランでアルバイトをした初日がどんな様子か想像がつくでしょうか? たいていの子たちは、1日、2日もしたら追い出されます。そして、またチャレンジします。真面目に働いて親切に人に接することを学び、耐えることを学びます。これまで両親がくれた学費や小遣いの重みを全身で感じ、自然に両親に感謝する子供になります。その過程で、正直、誠実、責任感が生まれ、人間性が明るくなります。

生徒がこの2つを成功させるためには、自分を信じ、BOS法則を適用して、自分の脳を100%活用する必要があります。そして、何よりも大事なのは体力ですが、ベンジャミン学校の生徒は、腕立て伏せから始めて逆立ちで歩くまでが12段階になった「ベンジャミン12段」で体力を鍛え、卒業式には卒業証書授与のときに逆立ちで歩いて受け取りに行きます。

ベンジャミン学校は1年の実験期間を経て、2014年に開校し、韓国では今年4期生が入学して成功した人間性英才学校のモデルになりました。大学生と青年のためのギャップイヤーのコースも開設しました。日本にもベンジャミン学校が開校し、米国にもベンジャミン学校のクラスができ、中国でも準備しています。すでに日米韓のベンジャミン学校の生徒は夏と冬に集まって国際ワークショップを開き、普段はオンラインで交流しています。

▶教育の目的は人間性の開発、人生の目的は人格完成

なぜベンジャミンという名前を付けたのかには答えず、学校の説明が長くなりました。すでにベンジャミンという名前を付けた理由の一つは、説明できたと思います。それは最初から国際学校を念頭に置いたものでした。しかし、より重要な理由は、ベンジャミン学校の名前を取った「ベンジャミン・フランクリンの哲学と人生」にあります。

世界の青少年に最も必要なのは人間性を回復することです。ベンジャミン学校の構想を始めたのは随分前ですが、本格的な実験を始めたきっかけは、2011年と2012年に韓国の青少年の暴力や自殺の問題があまりにも深刻だったからです。私は、青少年の暴力や自殺は、社会全体の人間性喪失の問題が最も弱いところに現れたのだと考えました。

幼い命が開花もできずに枯れてしまうのがとても残念だったし、青少年や学校の問題を解決しなくては、社会の人間性回復は望めないので、これ以上先送りできないと決断したのです。

人間性は良い品性です。良い品性を育てるには良い環境が土台になります。愛と情緒で植物を育てるように子供の品性を見守る親の愛と関心の中で美しい品性の種は育ちます。

良い品性を作るための方法として、良い環境を作ることに加えて、良い選択をすることも大事です。環境も大事ですが、それよりも大事なのは、自分がどんな環境にいても、その環境のせいにするのではなく、絶え間ない選択によって自分の品性を開発していくのです。これを如実に示すよい例がベンジャミン・フランクリンでした。

ベンジャミン・フランクリンは、小学校2年生のまでしか学校に通っていません。貧しい移民の両親の下、17人兄弟の15番目に生まれ、家庭の事情も難しく、12歳の頃から兄が運営する印刷所で働きました。1、2年ほどで印刷業務には慣れ、そこではもう学ぶことがありませんでした。そのため、自己啓発に没頭し、独学でフランス語、イタリア語、スペイン語、ラテン語を身につけ、自由に使いこなせました。18歳で新聞発行人になりました。

彼は現実に安住せず、自分を発展させよう絶え間ない努力で多くの分野を極めました。科学者としての放電の原理を発見し、避雷針とフランクリンストーブを発明しました。また、米国の独立運動当時、フランスとの同盟を導き、英国との独立戦争で米国の勝利に貢献し、アメリカ合衆国建国の父の一人として、偉大な遺産を残しました。

彼は政治家、大統領、起業家、教育者を含めて、多くの人々と交流し、人生には富と名誉と権力よりも大事な何かがあると自覚しました。そして20代で「人格完成」という驚くほど偉大な人生の目標を立てました。ともすれば、理想主義者の夢で終わりがちな、この目標を実現するために、彼は節制、謙虚、誠実を含む、とても具体的な13徳を定め、これを実践するために努力しました。

このような原則通りに暮らしたので、彼は周りの人から信頼を得て、政治家、外交官、作家、起業家、ジャーナリスト、哲学者、教育者として様々な分野で注目に値する業績を達成することができました。リーダーとして、彼は自己啓発のロールモデルであり、自身の有名な座右の銘である「今日できることを明日に延ばすな」の典型的な模範となりました。

彼は数々の業績にも驕らず、死ぬまで人生に対する誠実な態度と謙虚さを失ないませんでした。自分の墓石には簡単に「印刷工 ベンジャミン・フランクリン」とだけ刻ませるほど、最後まで虚栄心やうぬぼれを警戒し、彼の生涯を通して、いったいどのように生きるのが正しい道なのかを示しました。

彼が偉大なもう一つの理由は、貧困な環境にありながらも自己啓発のために休むことなく取り組んだということです。彼は何かをするために、どんな限界も制約もつくりませんでした。現在の自分の仕事や学歴に関係なく、自ら目標を決めて努力すれば誰でも自己啓発できるということを示したのです。

▶すべての学校が弘益人間を育成する人間性英才学校になることを願う

私はベンジャミン・フランクリンの人生と哲学にとても感動し、ためらうことなくベンジャミン人間性英才学校と名付けました。知識伝達中心の教育ではなく、人間性を育て、自分の存在価値を見いだし、自ら独立的で創造的な生活を設計する方法を知っている未来の人材を育成する学校の主要な目的にぴったりの人物がまさに彼でした。彼はアメリカ人が建国の父と尊敬する人物であり、世界の人々が尊敬する人物だから、今後の地球村時代を導いていく人間性英才リーダーに最も望ましいモデルと考えました。

私はベンジャミン学校が特別な学校だと思われたくはありません。そうではなく、すべての学校が人間性英才学校になってほしいと思っています。大韓民国教育基本法第2条によると教育理念は「弘益人間」となっています。しかし、教育政策や教育課程のどこにも弘益人間を育成しようとする具体的な内容はありません。

だから、弘益人間を育成する教育として脳教育を作り、脳教育に人間性と創造性を涵養する青少年リーダーシップ学校のモデルとしてベンジャミン学校を作りました。過去3年間ベンジャミン学校が行った教育実験の優秀な成果が知られ、公教育でもベンジャミン学校をベンチマークしたり、優れたプログラムを部分的に導入しようとする積極的な試みがあると聞いています。

6月末には、国際脳教育総合大学院大学が主催した「脳活用しあわせ学校のための校長研修」に全国各地から学校長256名が参加したのも、人間性と創造性を同時に涵養できる新しい脳活用教育モデルに高い関心を見せてくれたのです。

第4次産業革命の時代を迎え、将来の教育と学校は、今後10年の間に過去100年以上の急激な変化があると予想されています。若い世代が、その変化の波の中で主人公になるためには、まず自分の脳のあるじ、人生の主人になる必要があります。どんな状況でも「私は私だ」と堂々と言えるべきです。自ら主体性を持って、自己価値を見いだし、夢を見つけて弘益人間に成長するベンジャミン学校の生徒の幸せそうな顔に明るい未来が見えます。

コメントは受け付けていません。